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男の買い物には、他人に見せられる贅沢と、見せられない贅沢がある。
時計は見せられる。コートも靴も見せられる。だが下着は、日常においては誰にも見せない(見せてはいけない)。だから多くの男は、下着を「消耗品」の箱に入れ、3枚組の実用品で人生を終える。俺も長らくその箱の住人だった。エアリズム、優秀。以上。下着について語る言葉を、俺は持っていなかった。
その箱をこじ開けたのが、グレイヴボールト(gravevault)である。日本の下着ブランドで、履いた瞬間の第一声は「なんだこれは」だった。今日は、誰にも見えない場所に金をかけるという、一見無駄で、実は最強の投資の話をする。
グレイヴボールトとは:素材で殴ってくる日本の下着ブランド
グレイヴボールトは、メンズアンダーウェアの専門ブランドだ。特徴は大きく二つ。一つは素材への異常なこだわりで、とろけるような滑らかさの生地を使ってくる。もう一つはデザインで、色柄の主張がはっきりしており、無地3枚組の世界とは対極にある。
ラインナップにはトランクスもボクサーもあり、シルエットや丈のバリエーションが揃う。俺の愛用はトランクス型だが、リンク先は同ブランドのボクサー型になる(型の在庫は変動するので、好みのシルエットはリンク先から辿って選んでほしい)。素材と型で価格も変わる世界だ。
グレイヴボールトを履いた本音レビュー
俺の感想はこうだ。
死ぬほど滑らかな素材で作られたパンツ。滑らかさで言えばユニクロのエアリズムボクサーもすごいけど、あれと違って「伸びない」のがいい。デザインは好き嫌いが分かれるが、僕は大好き。
この感想の核心は「伸びない」の一点にある。解説しよう。
滑らかな下着といえば、まずエアリズムが思い浮かぶはずだ。あれはあれで偉大な発明である。だがエアリズム系の滑らかさは、よく伸びる化繊が肌に密着することで生まれる「フィットの滑らかさ」だ。一方グレイヴボールトの滑らかさは、生地そのものの質感による「布の滑らかさ」で、過度に密着せず、布として肌の上を滑る。ぴったり吸い付かれるのが快適な人と、一枚の上質な布をまとっている感覚が快適な人——下着の好みはここで分岐する。俺は完全に後者だった。伸びないことで生地に張りと存在感があり、「いいものを身につけている」という感覚が一日中続く。
そしてデザイン。感想に書いたとおり、好みは分かれる。柄も色もはっきり主張してくるので、無地の静けさを愛する人には騒がしいだろう。だが俺は大好きだ。誰にも見えないのに、今日の下着が気に入っているという事実だけで、朝の気分が少し上がる。この「自分にしか効かない加点」こそ、下着という装備の面白さである。
闇も正直に。第一に、価格は3枚組文化圏から見ると桁がひとつ違う世界だ。第二に、伸びない素材は着脱時のストレッチ感がフィット系より少なく、密着ホールドが好きな人には物足りない。第三に、上質な生地は雑な洗濯に強くない。ネットに入れる程度の敬意は払うべき装備である。
俺のローテーション運用も公開しておこう。引き出しの中は現在、三軍制になっている。一軍がグレイヴボールト(気分を上げたい日、長い一日になりそうな日)。二軍がエアリズム(真夏日、スポーツの日、とにかく汗の日)。三軍が旧時代の無地たち(洗濯が回らなかった日の緊急登板要員)。この編成にしてから気づいたのは、朝、引き出しを開けた瞬間に「今日はどれでいくか」という小さな選択の楽しみが生まれたことだ。下着が実用品だけだった時代、引き出しは単なる補給庫だった。今は、ささやかな装備選択の場である。生活の楽しみは、こういう数秒に宿る。
柄選びの楽しさについても語らせてほしい。グレイヴボールトの柄は、洋服では絶対に選ばないような大胆なものが多い。俺のお気に入りも、シャツでこの柄だったら絶対に着ない、という部類だ。だが下着なら選べる。誰にも見えないという安全圏が、普段の自分の「好みの外側」への冒険を許してくれるのだ。そして面白いことに、下着で冒険を続けていると、服の色選びまで少しずつ大胆になってくる。見えない場所の冒険は、見える場所の勇気の練習になる——というのは言い過ぎだろうか。いや、体験者として言い切っておく。
洗濯の実務も書いておく。上質な生地を長持ちさせるコツは単純で、洗濯ネットに入れる、乾燥機に放り込まない、この二点だ。面倒に聞こえるかもしれないが、ネットに入れる動作は3秒である。3秒の手間で一軍選手の寿命が延びるなら、監督としてやらない理由がない。ちなみにこの3秒すら惜しんで乾燥機に直行させた同志の報告によれば、生地の風合いは着実に削れるとのこと。良い道具と長く付き合う秘訣は、道具のジャンルを問わず「ほんの少しの敬意」に尽きる。
総評するなら、「フィットの快適」ではなく「素材の快適」を選ぶ人のための下着。誰にも見えない場所で、毎日確実に自分の機嫌を取ってくれる。
下着の3派閥:あなたはどの箱の住人か
男の下着観は3派閥に整理できる。
(1)消耗品派。 無地セットを傷むまで着回す。コスパ最強、思考コストゼロ。この生き方を否定する気はまったくない。ただ、毎日必ず身につけるものの快適性を一度も検討したことがないなら、それは節約ではなく未検討なだけかもしれない。
(2)機能派(エアリズム系)。 吸汗速乾、密着フィット、夏の相棒。機能的正解を求めるならここで完結する。実際、俺の下着ローテにもエアリズムは残っている。適材適所だ。
(3)趣味派(グレイヴボールトはここ)。 下着を「自分の機嫌を取る装備」と捉える派閥。素材の快感とデザインの遊びに金を払う。誰にも披露できない趣味だが、だからこそ純度が高い。見栄が一切混ざらない、完全に自分のためだけの贅沢である。
買ってはいけない3か条。一、下着は白か黒の無地しか認めない人(このブランドの楽しさの半分はデザインだ)。二、密着ホールド感が快適の定義の人(伸びない素材とは思想が合わない)。三、洗濯機に敬意を払えない人(上質な生地は扱いに応えるし、扱いに泣く)。
逆に、時計も靴も一通り揃えて、次に何を良くするか迷っている人。灯台下暗し、まだ手つかずの一等地が、毎日肌に触れている。
はじめての一枚を選ぶ人のための実務も残しておく。
Q. トランクスとボクサー、どっちから入る? 俺の愛用はトランクス型だが、これは「締め付けからの解放」と「布の滑らかさ」を最大限に味わえる型だからだ。一方、パンツのシルエットへの影響を最小にしたい人、ホールド感がないと落ち着かない人はボクサー型が入口になる。リンク先はボクサー型なので、そこからブランドのラインナップを辿って、自分の生活に合う型を選んでほしい。
Q. サイズ選びの注意は? 伸びない素材だからこそ、サイズ表との照合は普段より丁寧に。フィット系の下着で「Mでちょうど」の人が、同じ感覚で選ぶときつく感じる可能性がある。迷ったら上のサイズ、が この素材の定石だ。
Q. 何枚から始める? まず1枚。これは節約の話ではなく、検証の話だ。1枚を一軍ローテに混ぜて一週間回し、「他の下着の日に、あの1枚が恋しくなるか」を観察する。恋しくなったら、それがあなたの答えである。まとめ買いは答えが出てからで遅くない。
Q. 高い下着って、結局自己満足では? そのとおり、完全なる自己満足である。ただし本文で書いたとおり、誰にも見えない場所の満足は、見栄の混じらない純度100%の自己満足だ。そして一日の大半、肌に直接触れ続けている布の快適さは、自己満足の中でも稼働率が図抜けて高い。年に数回しか着ない高級服より、毎日8時間以上触れている布。投資効率で考えれば、むしろ理屈っぽい買い物なのだ。
それと、これは同志からの受け売りだが、上質な下着にはもう一つの効能があるらしい。急な健康診断や、思わぬ場面で人前に近い状態になったとき、「今日の装備」に一切の後悔がないという安心感だ。いつ誰に見られても恥ずかしくない状態を毎日維持する——聞けば当たり前のことを、俺たちは案外できていない。見えない場所を整えておくことは、不意打ちへの備えでもある。
結論:「見えない贅沢は、混じり気なしで効くの法則」
最後にまとめよう。今回の教訓は「見えない贅沢は、混じり気なしで効くの法則」である。
見える装備の満足感には、どうしても「他人にどう見えるか」が混ざる。それが悪いとは言わないが、他人の目がある限り、その満足は純度100%にはならない。下着は違う。誰にも見えない。褒められない。インスタにも上げられない。それでも気分が上がるなら、それは正真正銘、自分だけの満足だ。自分の機嫌を自分で取る技術として、上質な下着は最小面積で最大の効果を出す。
3枚組の箱から一度だけ出てみたい人は、リンク先で柄と型を眺めてほしい。誰にも言えない楽しみが、明日の朝から始まる。


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