20年同じペンを使ってる理由を、ちゃんと考えたことがなかった

気づいたら、ペンだけ20年同じだった

冷静に考えると、ちょっと変だなと思った。

仕事も変わった。
会社も変わった。
使ってる手帳も、働き方も、立場も、まあそれなりに変わった。

なのに、
ペンだけがずっと同じメーカーだった。

別に意識していたわけじゃない。
「俺はこれしか使わない」と決めていた記憶もない。

ただ、気づいたら毎回、同じ棚の前に立って、同じシリーズを手に取って、そのままレジに向かっていた。

これを書いていて、
「うわ、ちょっと宗教っぽいな」と思ったけど、
実際の感覚はもっと地味だ。

こだわり、というほど立派なものじゃない。
執着、というほどの熱量もない。

たぶん一番近いのは、
「変える理由がなかった」
それだけ。

新しいペンが嫌いなわけじゃない。
限定モデルを見ると、ちょっとワクワクもする。

でも結局、買うのはいつも同じやつだった。

服で言うと、クローゼットにあるのはほぼ無地。
たまに柄物を見ても、「今日はいいや」って戻す感じ。

ペンに関しても、僕はずっとその状態だった。

ここで一応言っておくと、僕は文房具オタクではない。

ペンケースを開けて
「今日はどれにしようかな」
なんてやらない。

そもそも、仕事中にペンのことを考えていたくない。

だからこそ、同じものを使い続けるようになったんだと思う。

考えなくていい。
選ばなくていい。
失敗しない。

その代わり、特別な高揚感もない。

でも、それで困ったことは一度もなかった。

……と、ここまで書いてきて思う。

20年同じペンを使ってる人間が、「こだわりはない」と言うのは、さすがに無理がある。

たぶん僕は、
こだわりがあることを認めるのが、ちょっと恥ずかしかった
だけなんだと思う。

ペンにこだわりがある人だと思われたくない

正直に言うと、僕はずっとこう思ってた。

「ペンにこだわりがある人、ちょっと面倒そう」

言い方は悪いけど、会議の前に筆箱をガチャガチャやってる人を見ると、「仕事は大丈夫かな」って一瞬よぎる。

完全に偏見だし、自分が一番失礼だなとも思う。

でも、そういう感情は確かにあった。

だから余計に、自分が同じペンを使い続けてる事実を、深掘りしないようにしてた。

「たまたま」
「惰性」
「まあ普通でしょ」

全部、逃げ道だったと思う。

文房具に詳しい人、
レビューを語れる人、
型番をスラスラ言える人。

そういう人たちと、同じカテゴリーに入れられるのが嫌だった。

別にバカにしてるわけじゃない。
ただ、僕はそこに時間と体力を使いたくなかった。

仕事で疲れて、帰りのコンビニでペンを買うときに、性能比較なんてしたくない。

「これでいいや」
じゃなくて、
「これでいい」
が欲しかった。

だから、ペンの話を振られると、無意識に距離を取ってた気がする。

「いや、全然こだわってないですよ」
って言いながら、心の中では同じメーカーを20年使ってる。

冷静に考えると、結構ダサい。

こだわってるのに、こだわってないフリをしてる。

たぶん、こだわりがあること自体より、それを語り出す自分になるのが嫌だった。

ペンの話を始めた瞬間、
自分が一段階「面倒な人」になる気がしてた。

だから僕は、ペンを「語らない道具」にした。

静かに使って、何も言わずに、同じものを補充する。

それでいいと思ってたし、実際それで困らなかった。

ただ、その態度のまま20年経った結果、一つだけ無視できない事実が残った。

僕は、明確な理由がないものを、
20年も使い続けられるほど雑じゃない。

たぶん、ちゃんと理由はあった。

ただ、言葉にするほどの自信がなかっただけ。

0.38ミリじゃないと、手帳が落ち着かない

たぶん一番分かりやすい理由は、ペン先の細さだと思う。

僕がずっと使ってきたのは、0.38ミリ。

この数字に、特別な思想があるわけじゃない。

ただ、手帳に書いたときの字が、一番「普通」に見える。

これ、伝わりにくいけど結構大事で。

太すぎると、予定が主張しすぎる。

細かく書いてるだけなのに、「忙しい人」みたいな圧が出る。

逆に細すぎると、字が頼りない。

書いてる途中で、自分の思考まで薄くなる感じがする。

その中間が、僕にとっては0.38ミリだった。

もちろん、0.28ミリも試した。

むしろ、「より細いほうが偉い」みたいな空気もある。

実際、0.28の字は綺麗だ。

スペースも取らないし、ぎっしり書ける。

でも、使い続けていると、なんとなく疲れる。

手帳を見返したとき、字が整いすぎていて、自分の字じゃない感じがした。

たぶん、僕の手の動きと、思考のスピードに、0.28は少しだけ速すぎた。

その点、0.38はちょうどいい。

急いで書いても破綻しない。
雑に書いても、それなりに見える。

上手く書こうとしなくていい。

これが、地味に効いてた。

毎日使うものって、
「気を遣わなくていい」
が一番強い。

綺麗に書けるかどうかより、
雑でも許されるかどうか

今振り返ると、僕はずっとそこを見てたんだと思う。

0.28が悪いわけじゃない。
字が小さくて、手帳を作品みたいに使う人には、たぶん最高だ。

ただ、僕は仕事の途中で、急に書き殴ることが多い。

会議中に、思いついたことを、一瞬で書き留める。

そのとき、0.38は文句を言わない。

この細さは、
僕の雑さを責めない。

たぶん、それが一番の理由だった。

水性インクのあの滑りを、一度覚えてしまった

細さと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に、僕にとって大きかったのがインクだった。

水性。

この言葉自体は、正直どうでもいい。

理屈も、
成分も、
仕組みも、
ほとんど知らない。

ただ、紙に触れた瞬間の、あの滑り。

あれを一度覚えてしまうと、戻れなくなった。

最初から感動したわけじゃない。
「おお、すごい」
みたいなテンションはなかった。

むしろ、最初は気づいてすらいなかったと思う。

でも、別のペンを使ったときに、「あれ?」ってなる。

引っかかる。
止まる。
ちょっと遅れる。

その差に、あとから気づく。

油性が悪いわけじゃない。
あれはあれで、ヌルっとしてて、ちゃんとしてる。

レシートにも書けるし、にじまないし、信頼感はある。

ただ、僕の手帳は、そこまで厳しい環境に置かれてない。

普通の紙に、
普通に書く。

そのとき、水性のほうが、明らかに力がいらなかった。

力を入れなくていい、というのは、思ってる以上に楽だ。

字が上手くなるとか、
スピードが上がるとか、
そういう話じゃない。

書いてるときの肩の力が、ちょっと抜ける。

それだけ。

でも、毎日それを繰り返してると、差は積もる。

仕事中、ペンは思考の通訳みたいなものだ。

引っかかると、言葉も詰まる。

滑ると、考えたまま出てくる。

たぶん、僕はその感覚を、無意識に覚えてしまった。

だから、他のペンを使うと、ほんの一瞬だけ、「違うな」と思う。

そして、また戻る。

これを、こだわりと呼ぶのかどうかは、今でもよく分からない。

ただ一つ言えるのは、
一度慣れた滑りは、わざわざ手放す理由がなかった
ということ。

だから僕は、
同じシリーズを、
同じように、
買い換え続けてきた。

新しい機能がなくても、限定色じゃなくても、何も困らなかった。

むしろ、変わらないことが安心だった。

……ここまで来ると、もう一つ、自分でも分かってる事実がある。

僕は基本、新しいものにすぐ飛びつくタイプじゃない。

新しいモデルが出ても、基本は無視してきた

新商品が出ると、とりあえず買ってみる人がいる。

僕は、その逆だ。

基本、無視する。

興味がないわけじゃない。
店頭で見れば、「へえ」とは思う。

でも、手に取って終わり。

買うところまでは、ほぼ行かない。

理由は単純で、
今使ってるもので困ってないから。

これ、言葉にするとつまらないけど、僕の行動原理はだいたいこれだ。

ペンに限らず、
家電も、
仕事のツールも、
基本は同じ。

困ってない状態で、新しい選択肢を増やすのが、ちょっとしんどい。

だから、ユニボールシグノに関しても、ずっと同じだった。

キャップ式。
スタンダードなやつ。

派手な色も、特別仕様も、ほぼ素通り。

インクが切れたら、同じものを買う。

壊れたら、同じものを買う。

たまに仕様が微妙に変わってて、「あ、ちょっと違うな」と思う。

でも、それもすぐ慣れる。

それで20年。

自分でも、
「さすがに保守的すぎるな」
とは思う。

新しいものを試す楽しさを、自分から捨ててる感じもある。

ただ、それと引き換えに、得てるものもあった。

選ばなくていい。

この一点が、思ってる以上に大きい。

仕事中、ペンの選択で迷う時間は、ゼロ。

買い物中、レビューを読む時間も、ゼロ。

「どれにしようかな」
という思考自体が、発生しない。

これは、ちょっと楽だ。

もちろん、新しいモデルが出るたびに、全部追いかける人を否定する気はない。

それが楽しいなら、それでいい。

ただ僕は、そこに楽しさを感じないだけだった。

だから今回も、いつも通り、無視するはずだった。

……はずだった。

それでも今回は、何も迷わず買っていた

今回も、いつもと同じように無視するつもりだった。

新しいモデルが出た、
とか。
新インクが搭載された、
とか。

そういう情報は、だいたいスルー対象だ。

「どうせ自分には関係ない」
そう思って、普段どおりに過ごす。

……はずだった。

気づいたら、買っていた。

迷った形跡が、一切ない。

レビューも読んでない。
比較もしてない。
値段も、ちゃんと覚えてない。

自分でも、ちょっと怖かった。

ここまで保守的に生きてきた人間が、理由を詰める前に買うって、なかなかない。

あとから、「なんで買ったんだろう」と考えてみた。

高級モデルだから?
新インクだから?
限定感があったから?

たぶん、どれも違う。

もっと雑で、もっと感情的な理由だった。

「あ、これは自分が使ってきたやつの延長だ」
そう感じた瞬間があった。

スペックを理解する前に、納得してしまった。

これは、新しい挑戦じゃない。

変化でもない。

確認作業に近かった。

20年使ってきた感覚が、
「たぶん大丈夫」
って言ってきた。

それに逆らう理由が、見当たらなかった。

冷静に考えれば、高級モデルなんて、完全に趣味の領域だ。

仕事に必要かと言われたら、全然そんなことはない。

でも、今回はそこを考えなかった。

考える前に、もう選んでいた。

この時点で、
「あ、これはいつもの買い物と違うな」
とは思った。

ただ、不安はなかった。

むしろ、妙に落ち着いていた。

たぶん僕は、新しいペンを買ったんじゃない。

長年使ってきた感覚に、いつもより少しだけお金を払った
それだけだった。

触った瞬間に「あ、知ってるやつだ」と思った

箱を開けた瞬間、まず思ったのは、「ちゃんとしてるな」だった。

派手さはない。
自己主張もしない。

でも、雑には作られていない感じ。

ここで既に、ちょっと安心してる自分がいた。

ペンを手に取る。

重さ。
太さ。
表面の質感。

どれも、驚くほど新しくはない。

なのに、違和感もない。

「あ、知ってるやつだ」
本当に、それだった。

初対面なのに、昔から使ってた感覚に近い。

この時点で、半分くらい納得してしまった。

そして、
キャップ。

これが、予想以上によかった。

開けるときの音が、小さすぎず、大きすぎず。

カチッ、というより、コトッ、に近い。

文章にすると間抜けだけど、
この音だけで、仕事に入れる感じがした。

誰かに聞かせる音じゃない。
自分だけが分かればいい音。

それが、ちょうどよかった。

書いてみる。

ああ、やっぱり水性だな、と思う。

滑る。
でも、滑りすぎない。

0.38ミリの感覚も、ちゃんと残ってる。

「高級モデルだから別物」
みたいな方向には行ってない。

あくまで、延長線。

良くなってるけど、裏切ってこない。

この感じで、完全に腹落ちした。

僕はこれに、性能の進化を求めてなかった。

欲しかったのは、
「安心して使える確認」
だったんだと思う。

書き心地が劇的に変わったか、と言われると、正直そこまでじゃない。

でも、持ったときの気分は、確実に違った。

ちょっとだけ、机に置いておきたくなる。

ちょっとだけ、書く前に触りたくなる。

その「ちょっと」が、毎日積み重なる。

ここで初めて、
「あ、これは仕事用だな」
と思った。

ちなみに、僕が今回選んだのはこれ。

おすすめとかじゃない。
僕はこれを選んだ
それだけ。

値段を考えると、完全に贅沢だ。

でも、この感覚に関しては、納得できた。

正直、仕事の成果は1ミリも変わらない

ここで一回、期待を下げておく。

このペンを使ったからといって、仕事ができるようになったわけじゃない。

評価が上がったとか、集中力が爆上がりしたとか、そういうことは一切ない。

字が急に上手くなった、なんてこともない。

相変わらず、走り書きは汚い。

会議中のメモも、後から見ると
「これ、何?」ってなる。

成果は、本当に何も変わってない。

だから、このペンに過剰な期待をすると、たぶんガッカリする。

道具を変えたら人生が変わる、
みたいな話は、
だいたい後付けだと思ってる。

じゃあ、何が変わったのか。

一言で言うと、気分

もっと言うと、「ノイズ」。

仕事中って、思ってる以上に細かいノイズが多い。

ペンが引っかかる。
キャップが安っぽい音を立てる。
机の上で転がる。

その一つ一つは、大したことない。

でも、積もる。

今回のペンに変えてから、そういう小さな引っかかりが、ちょっと減った。

劇的じゃない。
でも、確実に減った。

書く前に、余計なことを考えなくなった。

「インク出るかな」とか、「これでいいかな」とか。

全部、頭の片隅から消えた。

結果、書くこと自体が、少しだけ静かになった。

たぶんこれが、一番大きい変化だ。

仕事の質が上がった、というより。

仕事の邪魔が減った。

この違いは、地味だけど、僕には合ってた。

逆に言うと、こういう変化に興味がない人には、全く刺さらないと思う。

成果を求めてる人。
効率を数字で感じたい人。

そういう人には、たぶんこのペンは向いてない。

ペンは、信用してる細さを使えばいい

ここまで書いておいて、かなり身も蓋もないことを言う。

ペンなんて、別に何でもいい。

極端な話、今使ってるやつで困ってないなら、変える必要はまったくない。

僕自身、20年ほぼ同じものを使い続けてきた。

それで、仕事は回ってた。

今回たまたま、高級モデルと新インクが出たから、手を伸ばしただけ。

正解を選んだ感覚は、正直ない。

あるのは、
「ああ、やっぱりこれでよかったな」
という確認だけ。

もし今、ペン選びで迷ってる人がいるなら、たぶん迷い方が違う。

細さ。
書き味。
重さ。

どれが優れているかじゃなくて、
どれを疑わずに使えてるか
だと思う。

僕の場合は、0.38ミリだった。

それ以上でも、それ以下でも、落ち着かなかった。

ただそれだけ。

このペンが合わない人も、もちろんいる。

  • 字を極限まで小さく書きたい人
  • 劇的な書き味の変化を期待してる人
  • 道具でテンションを上げたい人

そういう人には、物足りないと思う。

逆に、
「もう悩みたくない」
「考えたくない」
と思ってる人には、たぶん悪くない。

でも、別にこれじゃなくてもいい。

同じメーカーじゃなくてもいいし、高級モデルじゃなくてもいい。

信用できる細さと、引っかからない書き味。

それがあるなら、もう十分だ。

僕は、たまたまこれだった。

だから、無理に真似する必要はない。

調べなくてもいい。
買わなくてもいい。

ただ、自分が何を信用してるかだけ、一度考えてみる。

それくらいで、ちょうどいいと思う。


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