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毎晩、風呂場でひっそり敗北している男の話をしよう。俺のことだ。
朝の俺は有能である。ハードワックスを駆使し、鏡の前で髪型という名の建築物を完成させ、意気揚々と家を出る。問題は夜だ。シャンプー1回目、落ちない。2回目、まだ指に引っかかる。3回目に突入するころには、頭皮より先に心が乾いてくる。ハード系スタイリング剤の世界には、長らくこういう不文律があった。「セット力と落としにくさは比例する」。固めたければ、夜の自分に借金を背負わせろ、というわけだ。
俺はこの借金生活を社会人になってからずっと続けてきた。枕カバーにはうっすら謎の油膜が張り、シャンプーの減りは異常に早く、風呂の時間はじわじわ長くなる。それでも髪型は崩したくないから、毎晩律儀に借金を返す。我ながら健気だと思う。
念のため言っておくと、俺とて無策だったわけではない。「落としやすい」と評判のワックスを渡り歩き、ジェルもムースも一通り試した。だが大抵は、落としやすさと引き換えにキープ力が腑抜けるか、その逆かのどちらかで、シーソーの真ん中に立てる製品には出会えなかった。世界はトレードオフでできている。そう悟りかけていた。
そんなある日、行きつけの美容師に勧められたのがロレッタのハードゼリーだった。正直、最初はこう思った。「どうせこれも、俺の夜を犠牲にするタイプの固さだろ」と。結論から言うと、この予想は気持ちいいくらい外れた。今日は、ハード系整髪料の常識を一つ壊してくれたこいつの話を、光も闇も込みで書く。
ロレッタ ハードゼリーとはどんなスタイリング剤か
まず基本情報を整理しよう。ロレッタは美容室発のヘアケア・スタイリングブランドで、牧歌的なイラストのパッケージに見覚えがある人も多いはずだ。見た目は完全に「雑貨屋の棚で微笑んでいる可愛いやつ」。ところが中身は美容室系らしく実戦的で、その中でもこのハードゼリーは、名前のとおりハードセット担当のエースである。
形状はワックスでもスプレーでもなく、ぷるぷるのゼリー状。300gの大きなジャーにたっぷり入っていて、初見の感想は「整髪料というよりお菓子」だった。これを手のひらで軽く伸ばし、髪に馴染ませて形を作ると、乾くにつれてカッチリ固定される。いわゆるジェルセットの仲間だ。香りはローズ系で、俺の鼻には整髪料特有のツンとした感じが薄く、甘ったるさも残らず好印象だった。とはいえ香りの感じ方は完全に個人差の領域なので、そこは差し引いて読んでほしい。容量や価格も時期によって変動があるから、正確なところはリンク先で確認してもらうのが確実だ。
「ジェルとゼリーで何が違うんだ」と思った人へ。呼び名の厳密な定義はさておき、使用感でいうとこいつはみずみずしい水系のジェルで、髪への伸びがいいのが特徴だ。ガチガチ系にありがちな、伸ばしている最中からもう固まり始めて焦る感じが少ない。つまり初心者への門戸が広い。ここは後述する「使い方のコツ」にも関わってくる。
本音レビュー:キープ力と「お湯で落ちる」は両立するのか
実際に使い込んでいる俺の率直な感想は、こうだ。
ハード系は落とすのが面倒なものが多いが、ロレッタは違った。キープ力はかなり強いのに、お湯で簡単に落ちるのが本当に楽だ。セット力・持続力・後処理まで含めて完成度が高く、他を試す理由が見つからない。
順番に分解していこう。まずキープ力。これは堂々とハードを名乗っていい強度で、朝に固めた形が夕方まで大きく崩れない。俺の髪は太くて多くて、並のワックスだと昼休みには重力に降伏するタイプなのだが、ゼリーで固めた日は帰宅時までシルエットが生存している。風の強い日に前髪が旗のようにはためかない。それだけのことで、通勤のストレスは一段階減る。
持続力まわりで補足すると、湿気の多い日や小雨の日でも、固まった膜が湿気を吸ってへたる感じは俺の体感では少なかった。梅雨どきの「駅に着いた時点で前髪が終わっている」現象に苦しんでいる同志には、試す価値のある耐久性だと思う。もちろん髪質やスタイルによる個人差はあるはずなので、ここは断言を避けておく。
そして本題の「落ちやすさ」だ。ジェル系は乾くとパリッと膜を張る。普通ならこの膜を落とすために、泡立てては流す作業を繰り返す羽目になる。ところがこいつは、シャワーのお湯をかけて髪を揉むと、固まっていた膜がするっとほどけていく。体感としては「落とす」より「溶ける」に近い。あとは普段どおりシャンプー1回で終了だ。あの夜の敗北感が、ゼリーに替えてからきれいに消えた。セットは強固、撤収は一瞬。設営に4時間かけるくせに撤収は5分で終わるサーカス団みたいなやつである。
さて、ここからは闇の部分も包み隠さず書く。
闇その1、パリパリ感。 ジェルセットの宿命として、乾いた後の髪は固い。触れれば手触りは完全に「固定された構造物」で、ふわっとした無造作系の質感は出せない。ここは好みが真っ二つに割れるポイントで、ツヤのあるカッチリした仕上がりが好きな人には長所、マットで柔らかい質感を出したい人には明確な短所になる。
闇その2、やり直しが利かない。 一度乾くと、「やっぱり分け目を変えよう」が通用しない。無理に手ぐしで崩すと、白い欠片がパラつくことがあるのもジェルあるあるだ。つまり朝の鏡の前で、形を一発で決め切る集中力が要求される。二度寝明けの寝ぼけた脳には少々スパルタである。
闇その3、量の見極め。 ゼリー状でよく伸びるぶん、最初は適量が分かりにくい。俺は初日に調子に乗ってすくいすぎ、乾く前の前髪が額に貼り付いて、昭和の海水浴帰りの少年みたいになった。少なめに取って、足りなければ足す。この鉄則さえ守れば事故は防げる。
もう一つ、実用面の補足を。俺のおすすめは、髪を少し湿らせてから使うやり方だ。乾いた髪に直接いくより伸びが均一になり、形を作る猶予も少し生まれる。仕上げにドライヤーの風を軽く当てれば固定完了。このひと手間で仕上がりの再現性が目に見えて上がった。あと300gという大容量も地味に効いていて、毎朝使っても減りがゆるやかなので、残量に怯えながら底をこそぐ悲しい朝がなかなか来ない。
総評すると、欠点はどれも「ジェルという種族の性質」であって、この製品固有の欠陥ではない。むしろ種族最大の宿命だった「落としにくさ」を克服している時点で、ジェル界ではかなりの優等生だ。カッチリ系の髪型を作る人にとって、減点要素が見当たらない。これが使い込んだ末の正直な結論である。
ワックス・スプレー・従来ジェルと比較:ハード系スタイリング剤の選び方
ここで一度、感情と擬音を排して整理しよう。ハード系のセットを求める人間の選択肢は、実質4派閥しかない。
(1)ハードワックス派。 動きのある無造作な質感が作れて、日中の手直しも利く。ただしキープ力は中程度で、油分の強いものは夜のシャンプー2回コースになりがち。自由度と引き換えに、朝の再現性と夜の後処理を差し出す派閥だ。
(2)スプレー派。 ワックスの上から吹いて固める補助兵器。単体では形が作りにくく、結局ワックスとの二段構えになって工程が増える。朝の1分は夜の10分より貴重だというのに、装備を一つ増やす選択は俺の主義に反する。
(3)従来ジェル派。 ツヤとカッチリ感は出るが、落としにくい製品が多く、ツケの支払いが毎晩風呂場に回ってくる。かつての俺がいた場所である。
(4)お湯落ちジェル派。 ロレッタ ハードゼリーはここ。カッチリ系の仕上がりはそのままに、撤収コストだけを削減した進化形だ。弱点は前述のとおり、無造作な質感は出せないこと。マット系・ふんわり系が主戦場の人には向かない。
もう一つの比較軸はコスパだ。スタイリング剤は単価より「1回あたりの使用量と頻度」で考えるべきで、300gの大容量ジャーは毎日使う人間ほど効いてくる。小さなワックス缶を月イチで買い足していた頃より、財布へのダメージは体感でゆるやかになった。厳密な価格は変動するので、リンク先で容量と値段のバランスを見比べてほしい。
結論はシンプルで、目指す髪型が「動き」ならワックス、「固定」ならお湯落ちジェル。まずこの一軸で決めていい。
逆に、買ってはいけない人も明確にしておこう。一、マットでふわっとした質感が絶対条件の人。二、日中に手ぐしで直したい人(固まった後の髪は不可侵領域になる)。三、香り付きの整髪料がそもそも苦手な人。この3か条をすり抜けた人にとっては、ハード系選びの長い迷路はここが出口だと思う。
結論:「スタイリング剤は夜に選べの法則」
最後にまとめよう。今回俺が打ち立てたのは「スタイリング剤は夜に選べの法則」である。
世のスタイリング剤選びは、朝の仕上がりの話ばかりで進む。セット力、ツヤ、香り。だが毎日使う道具の満足度を本当に左右するのは、疲れ果てた夜にそれを落とす時間のほうだ。セット力は店頭のポップでも分かる。落としやすさは、使った人間しか知らない。そして日用品の幸福度は、派手な長所より「小さなストレスが無いこと」で決まる。
ちなみにこの法則、スタイリング剤以外にも応用が利く。靴でも調理器具でも、「使うときの快感」ではなく「片付けるときの手間」で選んだ道具は、なぜか長く生き残る。人間の継続を支えているのは、高揚感ではなく撤収の軽さなのだ。
ロレッタのハードゼリーは、朝の俺には強固な味方として働き、夜の俺には何も要求してこない。この往復の軽さこそ、「他を試す理由が見つからない」という感想の正体だ。価格やセール状況は変動するので、まずはリンク先で現在の条件を確認してほしい。洗面所に鎮座する300gのジャーは、場所こそ取るが、あれは借金の証文ではない。夜の自由の象徴である。


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