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白状しよう。俺は長年、マウスというものを「パソコンを買うと付いてくるオマケ」程度にしか考えていなかった。
会社では支給された心もとない純正マウス、家では量販店のワゴンで拾った1000円くらいの何か。それで特に困っていない、と思い込んでいた。だが冷静に考えてみてほしい。デスクワーカーが1日にマウスをクリックする回数は、控えめに見積もっても数千回。カーソルが画面上を移動した距離を合計したら、毎日ちょっとした散歩くらいにはなるはずだ。手首を浮かせ、指を曲げ、小さなプラスチックの塊を何時間も握り続ける。これはもう「オマケ」の仕事量ではない。完全に「相棒」の労働量である。その相棒を、俺はワゴンの中から目をつぶって選んでいた。靴を適当に選ぶ人間が足を痛めるように、マウスを適当に選ぶ人間は、手首と夕方の集中力で静かにツケを払う。
そんな俺のデスクに、レイザーの「Basilisk V3 Pro」がやってきた。きっかけは深夜のセール徘徊という、ろくでもない人類の営みだ。先に結論を言ってしまうと、これは良い買い物だった。ただし、買う前に想像していた感動と、実際に手に入れた感動の「種類」がまるで違った。今日はそのズレの話を、光と闇の両面から書いていく。
Basilisk V3 Proとはどんなマウスか:特徴を整理
まず基本情報から。レイザー(Razer)はゲーミングデバイス界の大手で、緑に光る蛇のロゴでおなじみのブランドだ。Basilisk V3 Proは、その中でも「多機能・全部入り」路線の上位に位置するワイヤレスゲーミングマウスである。
特徴をざっくり並べよう。右手に沿うエルゴノミクス形状。親指をあずけるサムレスト。多めに配置されたボタン群。回し心地をカリカリにもヌルヌルにも切り替えられるスクロールホイール。無線でも遅延を感じさせない接続性能。そして光る。しかもかなり本格的に光る。専用ソフトを使えば、ボタンの割り当てからライティングのパターンまで細かく作り込める。要するに「マウスにできることを全部盛ったらこうなった」という製品だ。
ゲーミングと名の付く製品ではあるが、実際には在宅ワークの相棒として導入する人も多い。1日中マウスを握り続ける人間にとって、ゲーミンググレードの作り込みは仕事道具としても普通に有効だからだ。俺もどちらかといえばその口である。
なお、細かいスペックや現在の実売価格は変動があるので、正確なところはリンク先で確認してほしい。この記事では「光って、多機能で、やたら握りやすい無線マウス」と理解してもらえれば十分だ。
実際に使った本音レビュー:メリットとデメリット
開封直後の俺の率直な感想は、こうだった。
初めて触ったときはガジェット感が強くて、素直にテンションが上がった。 ボタンは多いし、光り方は近未来だし、ホイールの切り替えは触っているだけで楽しい。デスクに置いた瞬間、自分の作業環境が二段階くらい強化されたような錯覚がある。ガジェット好きなら、この初日の高揚感だけでしばらく白飯が食える。
ところが、だ。使い込んでいくうちに、本当の主役はそこではないと気づいた。
実際に使ってみて一番良かったのは、持ちやすさだった。手にしっかりフィットして、長時間使ってもストレスが少ない。正直、期待以上だ。
これは完全に想定外だった。派手な機能に払ったつもりの金が、フタを開けてみれば「形」に対して支払われていた、という感覚に近い。手のひらを乗せたときの吸い付き方、親指がサムレストに収まるときの納まりの良さ。夕方になったときの手首の疲労感が、ワゴンマウス時代と明らかに違うのだ。ライティングは正直1週間で見なくなった。だがこの握り心地は、毎日、労働時間の全部にわたって効いてくる。地味な結論で申し訳ない。しかし道具の真価というものは、だいたい地味な場所に宿っている。
さて、ここからは闇の話をする。
闇その1、機能を持て余す。 このマウスはできることが多すぎる。多ボタンにマクロを組み、アプリごとにプロファイルを切り替え、感度を場面ごとに変える……という奥深い世界が用意されているのだが、現在の俺がボタンに割り当てているのは「戻る」「進む」「コピー」「貼り付け」である。フェラーリで近所のスーパーに行く生活、と言えば伝わるだろうか。悪いのはマウスではなく俺だ。それは重々分かっている。分かってはいるが、使っていない機能の分まで代金を払ったという事実は、深夜にふと枕元に立つ。
闇その2、普通に使うぶんには明確にオーバースペック気味。 ブラウジングと資料作成が中心の生活なら、この性能の半分も引き出せないだろう。多機能ゆえに本体もそれなりに大柄で、カバンに入れて持ち歩く用途にはまず向かない。デスクに常駐させてこそ真価を発揮するタイプだ。
闇その3、無線の宿命。 充電式である以上、電池残量という概念からは逃れられない。しかも接続が快適すぎて無線であることを忘れ、残量警告が出てから慌てるのが人間である。俺はケーブルを挿して充電しながらしのいでいるが、「無線マウスを有線で使っている瞬間の自分」と目が合ったときの微妙な敗北感だけは、各自で処理してほしい。
ついでに、光ることについて一つ根本的な指摘をしておきたい。マウスというのは使用中、常に手で覆われている。つまり一番活躍している瞬間、ライティングは手のひらの下で誰にも見られることなく光っているのだ。あれは使用者のためというより、席を立ったあとのデスクの見栄えのために光っているのだと、俺は解釈することにした。
総評すると、機能の多さを活かせる人には文句なしに良い。ただし普通に使うだけなら、性能の余りが出る。 ここを理解して買うかどうかで、満足度は天と地ほど変わるはずだ。
他のマウスとの比較と選び方:金を払う対象は3つに分解できる
ここで一度、テンションと擬音を排して整理しよう。人がマウスに金を払うとき、その中身は実は3つに分解できる。
(1)機能への支払い。 ボタン数、マクロ、プロファイル切り替え、ライティング。ゲームや動画編集のように「操作の種類が多い作業」をする人ほど、ここを回収できる。逆に言うと、ブラウザと表計算が主戦場の人は、ほぼ回収できない。
(2)性能への支払い。 センサー精度や無線の応答速度。対戦ゲームでは生命線だが、日常用途では体感差が出にくい領域だ。なお「無線は遅延があるから有線一択」という古の伝承を今も信じている人がいたら、そっと伝えたい。少なくとも俺の用途で、このマウスの無線に不満を覚えた瞬間は一度もない。伝承は伝承として、技術は進む。
(3)形への支払い。 フィット感と疲れにくさ。ここだけは、全人類が毎日確実に回収できる。1日8時間マウスを握る人間にとって、疲れにくさは趣味の問題ではなく労働環境の問題である。
Basilisk V3 Proは(1)(2)(3)の全部盛りで、価格もそれ相応だ。だから判断はシンプルになる。(1)や(2)に具体的な心当たりがある人には、順当に強い選択肢。(3)だけが目当てなら、もう少し安くて機能控えめのモデルも土俵に上がってくる。ただ、仮にこのクラスのマウスを3年使い倒すとすれば、1日あたりのコストは缶コーヒー1本を下回る計算になる(価格は変動するので、あくまで仮の目安として見てほしい)。毎日8時間握る道具の快適さがその値段で買えるなら、俺は安い部類だと思う。
念のため、見送ったほうがいい人もはっきりさせておく。買う前に確認すべき3か条。 一、手が小さめの人や、マウスを浅く軽くつまむ持ち方の人は、この大柄な形状と相性問題が出やすい。可能なら実物を触ってから決めてほしい。二、左手でマウスを使う人は対象外だ。これは右手用の形状である。三、ノートPCと一緒に持ち歩く前提の人は、素直にモバイル向けの薄いモデルを探すほうが幸せになれる。
逆に言えば、右手で使う、デスクに据え置く、長時間握る。この3条件が揃っている人なら、機能を持て余したとしてもなお、握り心地だけで元が取れる可能性が高い。俺がそうだったように。
結論:「良い道具は手が先に覚えるの法則」
最後にまとめよう。俺は今回の買い物から得た教訓を、「良い道具は手が先に覚えるの法則」と名付けた。
スペック表は頭で読むものだが、道具の良し悪しは頭より先に手が覚える。買って1か月も経てば、ボタンの数もライティングも人に自慢しなくなる。それでも手は毎日この形を記憶していて、たまに出先で別のマウスを触ると「なんか違う」と即座に文句を言ってくる。この「もう戻れない感じ」こそが、良い道具が良い道具であることの、何よりの証明だと思う。
正直に言えば、全員に必要なマウスではない。機能の大半を使わない未来も、あなたが俺と同類ならたぶん来る。それでも、毎日長時間デスクに向かう人にとって、手に一番近い道具への投資は、椅子への投資と同じくらい回収が早い。この手のガジェットはセールで価格が動きやすいので、急がないならリンク先で相場を眺めつつ、自分の右手に意見を聞いてみてほしい。あいつは口下手だが、意外と正直だ。


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