HHKB Studio レビュー|ギャグみたいに重いキーボードが、俺のマウスを失業させた話

黒いコンパクトキーボードのデスク

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キーボードを箱から出した瞬間、笑ってしまった買い物は人生で初めてだった。

重いのだ。HHKB Studioは、とにかく重い。宅配の箱を持ち上げた時点で「中に辞書でも入ってるのか」と思い、本体を取り出して確信した。これは冗談で作っているのではないか。キーボードという文明の利器は、この十年で薄く軽くワイヤレスにと進化してきたはずである。その潮流のど真ん中で、こいつは堂々と重い。潔いくらい重い。ギャグかっていうくらい重い。

ところがだ。この重い冗談みたいな板を机に据えて数週間、気づけば俺のマウスは机の隅で埃をかぶり始めていた。今日はこの「重さと引き換えに手に入るもの」の話をする。

HHKB Studioとは:キーボード界の異端児がさらに異端になった

HHKBといえば、プログラマーや文筆家が「これしか勝たん」と唱える静電容量無接点方式のキーボード……だったのだが、Studioはそこからさらに一歩踏み外した。キーの真ん中に、ノートPCでおなじみのポインティングスティック(あの赤いポチみたいなやつ)を搭載し、手前にはマウスボタンとジェスチャーパッドまで付けた。つまり「キーボードから一切手を離さずに、カーソル操作まで完結させる」ための統合兵器である。

補足しておくと、Studioのキースイッチは従来のHHKBの静電容量式ではなくメカニカル方式に変わっている。このあたりの仕様の詳細や現在の価格は変動もあるので、正確なところはリンク先で確認してほしい。ここでは「文字入力とカーソル操作を一枚に統合した、重量級の作業母艦」と理解してもらえれば十分だ。

HHKB Studioを使い込んだ本音レビュー

使っている俺の率直な感想はこうだ。

マウスポインタ付きのキーボード。とにかく重い。ギャグかっていうくらい重い。ただ、便利。マウスはあるけど、あまり使わなくて良い。ポインタの移動速度は一番速くすると快適。

光の話から始めよう。ポインティングスティックの何が偉いかというと、「ホームポジションから手が離れない」の一点に尽きる。文章を打つ→リンクをクリックする→また打つ。この繰り返しの中で、右手がキーボードとマウスの間を往復する移動、あれが完全に消える。一回あたりはコンマ数秒の話だ。だが一日に何百回と往復していた手が、定位置から動かなくなる。この感覚は、通勤経路から乗り換えが一つ消えたのに近い。気づいた頃には「マウスに手を伸ばす」という動作そのものが、ちょっと面倒な儀式に感じられてくる。

ただし、ここに設定の罠がある。初期状態のポインタはもっさり動いて「なんだ使えないな」となりがちだ。俺の結論は感想のとおり、移動速度を一番速くする。最速にして初めて、スティックは「代替品」から「主役」に昇格する。買って三日で見限りそうになっている人は、まず設定を疑ってほしい。

さて、闇の話だ。繰り返すが、重い。持ち運ぶ道具ではない。カバンに入れて出先で優雅に……という夢は、入れた瞬間の肩紐の食い込みが覚まさせてくれる。それからマウスボタンの配置やジェスチャーパッドには明確に「慣れ」が要る。最初の数日は誤タッチもするし、なんならスティック操作自体、ThinkPad文化圏の外で育った人には未知の言語だ。俺も初日は、カーソルが明後日の方向に泳ぐたびに「俺が悪いのか、お前が悪いのか」と問答していた。

もう一つ正直に言うと、この統合思想は「デスクで長時間、文字を打つ人」のためのものだ。動画視聴とネットサーフィンが主用途なら、マウスのほうが素直だし安い。

ここで、導入初週の俺の記録を公開しよう。初日、カーソルが明後日の方向に泳ぎ、資料の関係ないセルを三つ書き換えた。二日目、ジェスチャーパッドに手首が触れて画面がスクロールし、会議中に議事録が高速で流れ去った。三日目、なぜかコピーのつもりで切り取りを発動し、貴重な一文を虚空に消した。ここまで読むと欠陥品のようだが、四日目に変化が来る。スティックの倒し加減と画面の動きが、手の中で急に一致し始めるのだ。自転車に乗れた日のあの感覚に近い。五日目には、マウスに手を伸ばそうとして「あ、要らないんだった」と手が空中で停止した。この空中停止こそ、乗り換え完了の儀式である。

在宅会議の日の恩恵も書いておきたい。画面共有をしながら資料を操作し、チャットに返信し、次の資料を開く——この忙しい数分間、俺の右手は一度もキーボードを離れなかった。マウスとの往復があった頃は、この場面で必ず一拍の「持ち替え」が入り、その一拍のあいだに発言のタイミングを逃したりしていた。ホームポジションから動かないというのは、思考の中断が減るということでもある。文字入力とカーソル操作の間にあった小さな段差が消えると、頭の中の作業も地続きになる。これは使った人間にしか伝わりにくいのだが、あえて言葉にすればそういうことだ。

ちなみにジェスチャーパッド(本体手前の縁を指でなぞる機能)は、音量調整とスクロールに割り当てて運用している。正直、最初は「そこまで要るか?」と思っていた機能だが、動画を見ながら縁をすっとなぞって音量を変えるとき、俺は毎回ほんの少しだけ未来に住んでいる気分になる。要るか要らないかで言えば、たぶん要らない。だが道具の楽しさというのは、要る要らないの外側に住んでいるものだ。

念のため補足すると、俺は既にHHKB Professionalという静電容量式の名機も持っている(あちらのレビューも書いた)。それでもStudioを増やしたのは、打鍵の快感を取るか、手の定住を取るかという、キーボード沼の二大テーマがそれぞれ別の答えを持っているからだ。使い分けの結論だけ書くと、長文を没頭して書く日はProfessional、資料をまたいで作業する日はStudio。沼の住人の戯言に聞こえるだろうが、道具は仕事の形に合わせて着替えるものである。

総評するなら、重さも癖も全部ひっくるめて「据え置き型の作業母艦」として使うなら文句なしに便利。マウスが失業する程度には本物である。

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HHKB Studioは誰の机に置くべきか:3つの判定基準

ここで冷静に、自分の使い方と照らし合わせてほしい。判定基準は3つある。

基準1:一日にどれだけ文字を打つか。 打鍵が仕事の中心(コード、文章、資料)なら、ホームポジション死守の恩恵は毎日数百回積み上がる。逆にキーボードに触れるのがチャットの返信程度なら、この投資は回収できない。

基準2:机は固定か、移動か。 自宅やオフィスの決まった机に据えるなら、重さはむしろ安定感という長所に化ける。打鍵中に本体が1ミリもズレない安心感は、軽量キーボードでは得られない。ノマド派は素直に軽いやつを選ぼう。この重さを毎日運ぶのは修行である。

基準3:慣れの初期投資を払えるか。 スティック操作の習熟には数日〜数週間かかる。「買った日から快適」を求める人には向かない。「育てて快適」を楽しめる人向けだ。

そして毎度おなじみ、買ってはいけない3か条。一、持ち運び前提の人(腰と肩に響く)。二、マウスのエイム精度が命の対戦ゲーマー(スティックは精密射撃の道具ではない)。三、設定をいじらず初期状態で判断してしまう人(最速設定にたどり着く前に「合わない」と結論づけるのが一番もったいない)。

この3つを全部すり抜けた、毎日同じ机で長文と格闘する人。あなたのための板だ。

検討中の人から飛んできそうな質問に、先回りで答えておく。

Q. マウスは本当に不要になる? 9割の操作は不要になる、が正確な答えだ。画像編集のような精密なドラッグ作業では、俺も今でもマウスを召喚する。ただし「常時手元に置く道具」から「たまに使う特殊工具」へ、マウスの地位は確実に降格する。机の上の一等地が空くだけでも収穫だ。

Q. 普通のHHKBとどっちを買うべき? 迷っているなら、自分の作業を一日観察してほしい。文字を打ち続ける時間が長いなら打鍵感特化のProfessional、ブラウザや資料の間を行き来する時間が長いならStudioだ。俺のように両方買う末路もあるが、それは沼の底からの声なので参考にしなくていい。

Q. Bluetoothの接続は安定している? 俺の環境では複数台切り替え込みで安定稼働している。ただし遅延にシビアな対戦ゲーム用途なら有線接続を選べる点も安心材料だ。

Q. 結局、値段に見合う? 一日8時間、年間250日、手がキーボードに触れているとすれば年2000時間。この時間単価で割り算すると、高級キーボードの投資は一時間あたり数円の世界になる。毎日触る道具の値段は、総額ではなく時間割で見る——これが俺の会計基準だ。

最後に、購入前の実務チェックを一つだけ。StudioはUSB接続と無線の両対応だが、職場で使うつもりの人は、会社の端末にBluetooth接続や外部デバイスの制限がないかを先に確認しておくこと。最高の道具が情シスの規定で文鎮になる悲劇は、意外とよくある。

結論:「持ち運ばない道具に、軽さは要らないの法則」

最後にまとめよう。俺はこの買い物から「持ち運ばない道具に、軽さは要らないの法則」を学んだ。

俺たちは「軽い=正義」という価値観に慣れすぎている。スマホも、ノートPCも、財布さえも軽さを競う時代だ。だが、一日の大半を過ごす机の上で一歩も動かない道具にとって、軽さは何の得にもならない。むしろ、どっしり構えて指を受け止め続ける重さこそが性能になる。Studioの重さは欠陥ではなく、据え置き専用機としての開き直りなのだ。

マウスとキーボードの間を往復してきたあなたの右手に、定住という選択肢を教えてやってほしい。仕様と現在の価格はリンク先で確認を。重さの数字を見て笑ったら、たぶんあなたはもう半分買っている。

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